【第4回】人形芸術の巨匠と歩んだ20年2022.06.23

連載 第4回「三国志グッズ・川本コレクション展」に寄せて遠山 広基


(※本記事は2021年8月の記事です。)
現在、飯田市川本喜八郎人形美術館では特別展「三国志グッズ・川本コレクション展」を開催中である。川本喜八郎先生が収集した世界の様々な名品コレクションの中から三国志に関連するものを展示している。米の粉を水でこね蒸したもので作った「しんこ細工」や「泥人形」など、旅先から持ち帰ったものばかりなので小さな作品が多いが、人形の表情などを比べるととても楽しい。

三国志グッズ・川本コレクション展
飯田市川本喜八郎人形美術館で開催した
「三国志グッズ・川本コレクション展」

先生のアトリエをはじめて訪れた折、先生から「三国志の人物の中では誰が好きですか?」と聞かれた。困った私はとっさに「劉備玄徳です」と答えた。「なぜですか?」と聞き返され、返答に困って何を答えたか覚えていない。先生は少し笑いながら「珍しいですね」と言われたような気がする。これは川本先生独自の人物診断の様であったが、この答えについては、遂に教えていただけなかった。さて、少し失礼な言い方を許していただければ、川本先生は「旅上手」「買い物上手」である。先生は、英語・チェコ語・仏語・中国語・韓国語を使いこなし、語学が堪能なことはもちろんであるが、30代後半には人形修行のためにチェコに滞在したし、アニメーションフェスティバル参加のために世界各国を旅した。中国へは毎年のように旅されていたと思う。とにかく経験豊富なのである。私は先生の企画したツアー「中国・成都市」(1999)と「チェコ」(2001)の計2回に参加したが、言葉の壁を取り払ってくれるのが川本先生なら、私ら旅慣れない同行者に気配りするのもいつも先生だった。また、海外に出かけた時には、旅先から絵ハガキをよく送ってくださった。今見返すと旅の臨場感が伝わってきて、ありがたくて涙があふれる。

川本先生は「最上級のものを経験して教養を高めることが大切です」とよくおっしゃっていた。これも師と仰ぐ飯沢匡さんの教えとのことで「若い者はいいものを観なさい。おいしいものを食べなさい。最上級のものを経験するということがどれだけ大事なことか」と教えていただいた。買い物に関しては、そもそも目利きであることが求められるということなのだろうが、「『これは』と思ったらすぐに買う」ということらしい。同じことを竹田練場・竹田扇之助さんもおっしゃっていた。「躊躇してはいけない」らしい。中国成都市のツアーでは川本先生推薦の錦江賓館(きんこうひんかん)というホテルに宿泊した.このホテルの前には毎晩、露天に夜店が出来て、買い物が楽しいという事前説明だった。

しんこ細工
『しんこ細工』
三国志キャラクター(1984年洛陽にて)
「火宅」(1979)©(有)川本プロダクション
『泥人形』
左)三国志馬上の人物(1987年成都にて)
右)三国志人形揃い(1994年北京にて)

私は想像しているうちはワクワクしていたが現実はなかなか難しくて、なるほど夜店は並んだものの楽しむというところまで辿り着けなかった。買い物はおいしいものを食べること以上に難しいと感じた。川本先生はと言えば、いつもメンバーを大事にする方なのに、このときは多分単独で出かけていたと思う。そしてホテルに戻ってこんな素敵なものをみつけた、と皆に見せてくれた。しかも大量の買い物である。先生に見せつけられた者は「へぇ、そんないいものを売ってたんですね」という感じて、うらやましくなり、一方で自分が買ったものをつまらなく思ったりする。これは決して先生がイジワルということではない。多分誰か買い物に同行すると、同行者は先生が買ったものを同じように欲しくなるに違いないからだ。事実、過去には大勢で買い物に行って、先生が買うものを皆が買うから、バッタ襲来の如く棚から物がなくなってしまうという現象も起こったと聞く。多分先生はそんな煩わしさを経験上わかっていたのだと思う。また先生は、「買い物も訓練です」と私に教えてくれた。こんな風に買い集められた旅の名品の数々、お気に入りの三国志キャラクターの表情を追うだけでも楽しい。川本美術館の企画展にぜひ足をお運びください。

【「桃園の会」事務局 】

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